風城峠の回顧録

ゲームや本、地学のことなど

新潟の冬~雪との闘い~

 

 

はじめに

今年ももう10月になりました。だんだんと冬が近づいてきましたね。北海道の大雪山系ではもう雪が降りましたし、中部地方でも、北アルプスなどの高山では、いつ雪が降ってもおかしくない時期に入っています。10月初めは少し暑いくらいでしたが、今後急激に気温が下がる可能性があるので体調管理には気をつけてください。僕も昨年の10月中旬頃、熱を出して数日間寝込みました。

 

 さて、皆さん冬にはどんなイメージがありますか?太平洋側に住んでいる(もしくは住んでいた)方は、晴れの日が続くので、案外明るいイメージを持っている人も多いかもしれませんね。しかし、北西の湿った季節風が直撃する日本海側ではそうはいきません。冬は気象現象との全面戦争を強いられる時期です。僕が所属しているS大学は結構太平洋側出身者が多いので、冬の日本海側なんてニュースの中での遠い出来事だと感じている方も多いでしょう。今回、この記事で、日本海側の冬のリアルをお教えしたいと思います。北海道、または本州の日本海側の出身者は、共感して頂きながら読んでくれると幸いです。

 

新潟県上越市について

 僕の出身地である新潟県上越市は、新潟県の南西部に位置しています。人口はおよそ19万、新潟県の中では3番目の規模です。今住んでいる松本市と比べると若干劣るかなって感じで、まあ雰囲気はどこにでもある地方都市ですね。ただ上杉謙信がいた戦国時代は、当時の京都に次ぐレベルの全国有数の都会だったとか・・・。今は見る影もありませんが。

 

 さて、この上越市ですが、人口15万人以上の都市の中では、日本全国、いや世界でもトップレベルの積雪量を誇ります(高校の地理の先生談)。ライバルになるのは同じく新潟県にある長岡市、それと青森市くらいですね。最近はこの3都市は互角の争いですが、昭和の時代まで遡ると上越市が圧倒的に多いです。1986年には、上越市高田で最深積雪324㎝を記録しています。念のため言っておきますが、高田って山奥にあるわけではないですよ?平野部の、昔からの人口密集地帯です。そこで3m雪が積もるのはクレイジーですね。自分もこの目で見てみたかった・・・(当たり前ですがまだ生まれてないので)。平成に入ると暖冬少雪傾向が続き、1mも積もらない年も増えてきましたが、それでも数年に一度大雪に襲われます。2012年には最深積雪222㎝を記録しました。これも異常な年の例なので(昭和ではわりと普通でしたが)、現在の高田では積雪100㎝が平年並みと考えてもらえれば結構です。

 

 ちなみに、僕は内陸部の高田ではなく、沿岸部の直江津に住んでいました。直江津は市内の中でも雪の少ない地区で、平年では最高40~50㎝程度、多い年でも1mちょいしか積もりません。これでも十分多いじゃんと思う方もいるでしょうが、山の方に行けば超豪雪地帯が待ち構えている上越市やその周辺では、本当に少ない方なのです。高校は高田にある高校に通っていましたが、高田には雪があっても、直江津に戻ってみると全然雪が無いじゃねーかということがよくありました。「今直江津にはこれだけしか雪が無い」と、高校で友人達に自虐のように言っていました。(ただし後述する2018年の冬はちょっと違うのですが)ちなみに、直江津と高田は直線距離にして約8㎞ほど。標高も大差ありません。それでこれだけ雪の量が違うのは面白いですね。

 では雪が少ない直江津では、冬の生活は楽か?と言われるとそう一筋縄にはいかないのが日本海側の冬。海沿いなので、雪が積もらない代わりにあるものが強いのです。それは風です。どんなに気をつけていても、毎年1回は強風で傘が壊れます(1000円程度の傘を想定)。100円傘なんか使っていたら多分壊れまくります。細かい雪だったら別に差さなければいいのですが、問題は雨あられの日。雨だと全身がびしょ濡れになりますし、あられだと顔面に粒がバチバチ当たってきてもう地獄です。小学生の頃から、こんな状況の中の登下校を強いられるのです。高校に進むと、高田では傘が差せる程度の穏やかな風しか吹いてないのに、直江津では風がビュウビュウ吹いているということがよくありました。傘が差せる高田の方が住みやすいんじゃないかと思ったくらいです。

 

 またこれは雪の積もる地域共通の話題ですが、除雪車が道路の雪を取り除いていきますね。除雪車が通った後、道路の両側に除雪車がどかした雪が積み上がります。そうすると、車庫の入り口がその雪で塞がれてしまい、今度はその雪を手動で取り除かなければなりません。両親より帰宅時間が早かった小中学生時代は、大雪の日は家に着いたらまず車庫の前を塞いだ雪をどかしていました(そうしないと親が帰ってきたときに車を入れられないので)。除雪車は夜中にもやってきます。すると今度は除雪車がどかした雪で車が出せなくなるのです。両親は朝家の前の雪かきをしてから仕事に行っていました。本当にご苦労様としか言いようがありません。

 

 雪が積もると自転車に乗れません。僕が在学していた高校では、初雪が降ると「自転車通学禁止令」が出され、12月から3月半ばくらいまで自転車通学が出来ませんでした。というか市内の高校は全部そうだと思います。雪が降ったら自転車乗って学校に通っている高校生は見かけませんでしたし。ちなみに今住んでいる松本市は、昨冬は真冬でも雪がほとんど積もらなかったので自転車乗り放題でした。最高ですね。(今年はどうなるのか分かりませんが)

 

センター試験前日の悲劇

 さてここからはある体験談を綴っていきたいと思います。舞台となる日は2018年1月12日。この日の翌日には受験生にとってのビッグイベントが待ち構えていました。

 そう、センター試験です。

 僕はこの日の前日の帰宅途中に、多分大雪のせいで起きたあるトラブルに巻き込まれました。センター試験の前日は皆さんさっさと帰って勉強したいですよね。しかし、この日の僕が帰宅に費やした時間は普段の3倍以上。どうしてこうなってしまったのか?そのことについて書いていきたいと思います。

 

 センター試験は雪国民にとって嫌~な時期にあります。センター試験の日は大体大雪の日とかぶります。僕の一つ上の代もそうでした。自分の時は大雪にならなければいいなと思っていましたが、むしろ状況は悪化しましたね。(ちなみに一つ下の代は大雪の日とかぶりませんでした。運のいいやつめ)

 

 2018年1月12日、先に書いた通りセンター試験の前日ですが、この日の雪の積もるスピードは尋常じゃありませんでした。この日に気象庁高田観測所で得られた積雪量のデータを並べてみます。

 

午前1時 15㎝

2時 18㎝

3時 21㎝

4時 22㎝

5時 26㎝

6時 39㎝

7時 43㎝

8時 55㎝

9時 61㎝

10時 63㎝

11時 68㎝

12時 70㎝

13時 73㎝

14時 76㎝

15時 80㎝

16時 83㎝

17時 82㎝

18時~20時 89㎝

21時 90㎝

 

 なんと、一日の間に75㎝も雪が積もってしまったのです!降雪量だとなんと81㎝!ちなみに、一日の降雪量が60㎝を超えたのは2010年2月3日の61㎝以来、70㎝を超えたのは2005年2月1日の73㎝以来、この日の記録を超えたものとなると2000年1月27日の86㎝まで遡ります!気象庁のデータからも、この日は雪国高田でも稀に見る大雪だったということが分かります。日付が変わってすぐの時は積雪はまだ15㎝でしたから大したことないですよね。しかし、よりによってセンター試験前日のこの日に、積雪量は急増してしまいました。

 

  さて、この日をどのように過ごしたか、朝から振り返りたいと思います。

 

 目覚めると外は大雪。バスや電車などの公共交通機関は当てになりません。学校を休んでしまうという手もあるのですが、この日はセンター前日。受験直前期は、学校に行くことが精神安定剤となっていたので、高田に職場がある母親の車に乗って、学校に向かうことにしました。

 家を出た時間ははっきりとは覚えていませんが、午前7時過ぎくらいだったと思います。家から高校までは8㎞ちょいの道のり、普段なら、車だと20分あれば行けてしまいますが、この日は大雪。そうなると、上越市の市街地を南北に通っている通称「上越大通り」で大渋滞が起き、なかなか車が前に進みません。大雪の日には、直江津~高田間を運転するのに2時間くらいかかってしまうことがよくあります。この日も例に漏れず、学校に着いたのは午前9時頃でした。学校に着くのと1限開始がほぼ同時みたいな感じだったので、休む間もなく数学の問題を解かされました。

 

 センター対策の問題を解いている間にも、外では雪が物凄いスピードで積もっていきます。この時はその様子を面白く眺めてましたね。今までに色々と文句めいたものを書いてきましたが、実は僕は雪がどんどん積もっていくと楽しくなってくる性格です。休み時間になるたびに気象庁のサイトを開いて、どれくらい積もったか見ていました。

 

 そんなこんなで授業は終わり、午後4時40分頃、帰宅の途につきました。調べると「妙高はねうまライン」は何とか動いているようなので、僕は南高田駅に向かいました。

 この日の帰宅のことについて、僕はTwitterに簡単に書き残していました。マメですね()。それに沿ってこの先書いていきたいと思います。

 雪の中を歩くこと約20分で南高田駅に到着。そこはいつ来るか分からない電車を待つ高校生達であふれていました。雪国の電車は、ちょっとやそっとの雪じゃ止まりません。ちゃんと時刻通りに電車がやって来ます。しかし、さすがにこの日の雪は度を超えており、時刻表は意味を成さないものとなっていました。それでも、こんな状況でも電車を動かしてくれたえちごトキめき鉄道さんには本当に感謝です。

 待ち時間は本当に虚無の時間でした。ちなみに、南高田駅は住宅街の中にありますが無人駅です。駅舎も小屋のようなものしかありません。つまり、駅舎の中で電車を待てるのはごくわずかの人のみ。多くの人はホームで冷たい風雪に吹かれながら待つ羽目になります。僕もそうでした。

 先に新井・妙高高原行きの電車がやって来ました。ここで僕は友人達に別れを告げて、後は一人で直江津行きの電車を待ちました。

 

 電車を待つこと約25分、午後5時30分に電車が到着しました。これは約20分遅れでした。でも、これで直江津に帰れる!あと40分後には家に着ける!と思ってほっとしたのです。これからが恐怖の始まりだとも知らずに・・・。

 

 南高田駅から電車に3分ほど揺られると高田駅です。なんと、ここで約20分の足止めをくらいました。それは、電車の行き違いのためです。妙高はねうまラインは単線なので、片方の電車が遅れると、つられてもう片方の電車も遅れてしまうのです。とにかく早く帰らせろ!と椅子に座りながら思いました。

 

 向こうから電車がやって来て、ようやく自分の乗っている電車も動き出しました。あとは直江津駅まで電車の行き違いをすることはありません。ようやくスムーズに直江津駅まで帰れる・・・。そう思いました。ところが・・・。

 春日山駅を過ぎたあたりから、電車に異変が生じ始めました。突然自分の乗っている車両の明かりが消えたのです。しばらくするとまたつきましたが、再び消えました。そんなことを繰り返しているうちに、電車のスピードはどんどん下がっていって・・・

 ついには止まってしまいました。

 

 電車はガガガという機械音とともに、何とか走り出そうとします。ようやくノロノロと走り出しても、10数秒ほど経つとガシャン!という音とともに止まってしまいます。再び走り出そうとしますが、やはり何秒かするとガシャンといって止まってしまいます。そういうことが何回か繰り返された後・・・

 ついには動かなくなってしまいました。

 既に電車は直江津駅構内と言えるような位置に入っているのです。しかし、辺りは一面の雪。それも今日たっぷりと積もった新雪。乗客を降ろそうにも降ろせません。つまり、乗客は列車の中に閉じ込められてしまいました。

 この時僕の脳裡によぎったのはあるニュースです。この日の前日、三条市上越市よりも北、新潟県中部に位置する町です)の方で、大雪のせいで列車が立ち往生し、乗客が一晩中その中に閉じ込められたというトラブルがありました。三条は上越よりも雪の少ない地域です。しかし、この日は想定外の大雪で、除雪が間に合わなくなってしまったのです。その結果、電車は動けなくなり、乗客は15時間もの間電車の外に出られないという悲惨なことになりました。

 もしかすると自分も一晩中電車の中に閉じ込められるのか・・・。

 冗談じゃない!明日はセンター試験だぞ!センター試験を徹夜後に受けさせられてたまるかよ!

 本当に叫び出したい気分でした。気休めに教科書なんか開いても何も頭に入ってこない。一刻も早く家に帰りたい・・・。悲痛な叫びを友人とのLINEや親へのメールに乗せて送信しました。これくらいしかすることが出来なかった。精神的にとても辛かったのです。みんなちゃんと帰れているのに、何で俺ばかり・・・。この時電車に乗っていた受験生はみんなそう思っていたはずです。

 

 そうして電車の中に閉じ込められてから1時間が経過した午後7時10分頃、ようやく降りられる準備が整ったとのことでした。やった、これで解放される!誘導に従って降りると、外には積もった雪を除雪して出来た細い道が駅舎の方まで続いていました。その距離は100メートル以上はあったと思います。直江津駅の駅員の方々が、動けなくなった電車まで道を作ってくださったのです。これは本当にありがたかったです。こうして、僕は電車を降り、家路に向かって歩き出すことが出来ました。

 

 そして、学校を出てから3時間近く経った午後7時30分頃、無事に家に着くことが出来ました。帰宅するまで普段の3倍ほどの時間がかかりました。今までで一番嬉しい帰宅だったかもしれません。帰宅できた喜びを噛み締めました。

 

 2018年1月13日、ついにセンター試験当日。この日の天気も雪でしたが、前日ほどではありませんでした。親に車で送ってもらって、無事会場の上越教育大学にたどり着くことが出来ました。雪国でのセンター試験は、まず会場にたどり着くまでが試練です。大雪のせいで大渋滞が起き、開始時間に間に合わなかった、なんてことが起きうるので。幸い自分はそんな風にはなりませんでしたが。また、自分みたいに会場が家からわりと近い人はいいのですが、問題は家から遠い人です。上越市の隣、妙高市糸魚川市の人も、上越教育大学(または新潟県立看護大学)で試験を受けなければなりません。この場合、彼らは当日の朝に家を出て会場を目指すなんてことをすると高確率で間に合いません。いや、雪の無い穏やかな天気だったら良いんですよ?しかし、この時期は大雪の季節。当日の朝に家を出て、上越に向かう電車に乗ろうとしたら、電車が止まっていた、または車で行こうとしたら大渋滞に巻き込まれた、なんてことになったら一巻の終わりです。ということで、会場が家から遠い人は上越での前夜泊を強いられることになります。本当に大変だと思います・・・。

 

 翌1月14日も雪は降り続き、朝方には積雪が93㎝に達しました。しかし、大きなトラブルも無く、無事試験を終えることが出来ました。

 

 この年の冬はその後もたびたび大雪に襲われ、2月13日にはその冬の最深積雪である129㎝を記録しました。この年がいつもの冬と違うのは、普段雪の少ない直江津でも1m以上雪が積もった、ということです。大抵直江津は高田の半分くらいしか雪が積もらないのですが、この年はあまり差がありませんでした。つまり、市内ほぼ全域が大雪に襲われたのです。

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↑ 1m雪が積もった高田公園。3枚目の写真の範囲内にはベンチがあるが、完全に雪に埋もれてしまっている

 

でもやっぱり・・・

 大学生になって、新たに松本市での生活が始まりました。雪はどれくらい降るのかなと思っていたけれど、チラチラと降るばかりで、やはり大量には降りませんでしたね。(もちろん今年はどうなるか分かりませんよ?)積もっても2~3㎝くらい。晴れる日が多く、雪もたまにしか積もらないので自転車にも乗れる。気温も朝晩の冷え込みさえ耐えれば、日中は上越市とほとんど変わりません。多分自分が生きてきた中で一番過ごしやすい冬だったと思います。

 でも、それだと張り合いが無いですね。前にも書いた通り、雪で苦労することはあっても、僕は雪が積もっていくのを見るのが好きなのです。小学生の時、授業中に誰かが外で初雪が降っているのを見つけると、「マジで?」ってなってみんな一斉に窓際に駆け寄りました。その気持ちは、今でも忘れていませんよ。大学進学で今神奈川に住んでいる友達がこの前言っていました。「将来また雪の降る場所に住もうかな。」何だかんだ言って雪が好きな雪国民はきっと多いはずです。

 夏はフェーン現象が起こると40℃まで気温が上がり、冬は大量に雪が積もるという、四季の移ろいが過剰ともいえる上越市をはじめとした日本海側の地域。そこで生活するには苦労がつきものですが、個人的には、最も日本らしい気候なのではないかと思っています。そのような場所で育ったということは、ある意味貴重な体験なのかもしれません。