風城峠の回顧録

ゲームや本、地学のことなど

2020年上半期に読んだ本+5選(前回の10選の続き)

10選についてはこちらから

 

shikakuyama.hatenablog.com

 

 せっかくなので、今年の上半期に読んだ本についてもう少し紹介したいと思う。前回書いた10選には選んでいないので、年末に作成予定の「今年読んだ本TOP10」には入らないことが確定してしまったが、紹介しないままにしておくのには勿体ない個性的な小説ばかりである。あくまで個人的に順位をつけていったら上半期TOP10には入らなかっただけのことであり、決して前回紹介したものより内容が劣っているというわけではないことを頭に入れておいて欲しい。何故なら前回でも今回でも紹介していない作品の中には、日本文学の歴史において価値の高い作品が複数含まれているのだから。ここでは権威など関係なく、個人の好みを最優先して紹介していく。

 

 

ダンス・ダンス・ダンス

村上春樹・著 1988年

・読んだ期間 (上巻)2020年3月22日~3月24日、(下巻)2020年3月25日~3月27日

 

 村上春樹の小説は凄いというので、中2の終わり頃に短編集「レキシントンの幽霊」を読んでみたら非常に感銘を受け、そこから中3~高1までは結構村上作品を読みあさっていた。しかし「1Q84」と「ノルウェイの森」に嫌気が差し、そこからはアンチ村上寄りになっていった。そんな僕が3年ぶりに新しく手をつけた村上作品がこの小説である。

 

 これは僕が好きなタイプの村上作品だった。「いるかホテル」にあった暗闇の広がる謎の空間・・・。こういう不思議な世界が突然広がるのが村上作品の面白いところ。また主人公の絶妙なひねくれ具合が結構好き。「ティーン・エイジャーから小銭を巻き上げるためのゴミのような大量消費音楽」(笑)。ただ途中からやたら人が死んだり消えたりするのでなんとも言えない喪失感に襲われる。あと後半のハワイ旅行が地味に長い。このせいで10選には選ばれなかった感がある。

 まあ、村上春樹の小説では比較的読みやすい方だと思う。というか特に有名な「ノルウェイの森」と「1Q84」は結構初心者殺しだと思うんだよなあ・・・。村上作品を読むなら、まずは「レキシントンの幽霊」をオススメするよ。

 

 

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫
 

 

 

「虚無への供物」

中井英夫・著 1964年

・読んだ期間 2020年3月27日~3月31日

 

 日本三大奇書の1つ。ちなみに他の三大奇書である「ドグラ・マグラ」は2016年12月に(2018年12月に再読)、「黒死館殺人事件」はこれを読んだ直後の2020年4月に読了済み。日本三大奇書についてもいつかブログで書いてみたいなと思う。

 

 一族の人々が次々と事故で亡くなっていった呪われた(?)一族、氷沼家が舞台。その氷沼家で殺人事件が起こるんじゃないかと予想するが、実際にその後一族の者や深い関係のある者が次々に不可解な死を遂げてしまう・・・。

 

 奇書とは言っても、他の2作ほど狂気に満ちた作品ではない。普通に推理小説である。しかし、今後どのような事件が起こるのか予想するという展開が斬新。中にはそのためにわざわざ小説を書いてくる人物も。事件後は周辺人物みんなで犯人を推理するのだが、その推理には非現実的なことも出てくる始末で、犯人候補も二転三転。やれやれって感じ。

 最後、「犯人は読者」みたいな発言が飛び出す。つまり事件を傍観しながらああだこうだ言い合うのは良くないということか。あなたたち、思い切りブーメランだと思うのですが・・・。ちなみにちゃんと犯人はいるのでご安心を。こういうところがアンチ

ミステリと言われる所以か?

 

 

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

  • 作者:中井 英夫
  • 発売日: 2004/04/15
  • メディア: 文庫
 

 

 

芙蓉の人

新田次郎・著 1971年

・読んだ期間 2020年5月9日~5月14日

 

 日本で初めて富士山の冬季登頂に成功した野中到の妻、千代子が、夫とともに富士山の冬季気象観測に挑む話。現代でも冬の富士山は物凄く過酷な場所なのに、まだあらゆるものが発達していない明治時代中期にそれをやったというのが凄い。それにしても、千代子はそれまでろくに山を登ったことがなかったのに、冬の富士山での生活に挑むとは、なんて根性だろうと思う(勿論富士山に挑む前にちゃんとトレーニングを積んでいた)。生死の境をさまようくらい過酷な環境で互いを支え合う夫婦の姿には心打たれるものがある。

 

 ちなみに新田次郎氏の小説には富士山を題材にしたものが多くあるが、それもそのはず、本人も富士山頂の気象レーダー建設に、それも重要な責任者として関わっているのである(その時の経験は「富士山頂」という小説に著わされている)。そんな彼には、富士山頂の気象観測の原点とも言える野中夫妻はどのように映っていたのだろうか。非常にロマンのある話である。

 

 

新装版 芙蓉の人 (文春文庫)

新装版 芙蓉の人 (文春文庫)

  • 作者:新田 次郎
  • 発売日: 2014/06/10
  • メディア: 文庫
 

 

 

「Another エピソードS」

綾辻行人・著 2013年

・読んだ期間 2020年5月19日~5月20日

 

 「Another」の続編、というよりも本編を読んだ人に対してのオマケって感じ。なお、この作品では本編のネタバレが普通にされているので、本編を読んでない人は決して読まないように!(そういうのを気にしないのならば別にいいけれど・・・)

 昨年読んだ「Another」の感想についてはこちらから。

shikakuyama.hatenablog.com

 

 「Another」のヒロインである見崎鳴が、別荘で幽霊になった男、賢木と、彼の死体探しをするという話。物語の半分以上はこの賢木によって語られるので、実質彼がこの話の主人公。今作も綾辻トリック全開で、終盤に衝撃の真実が明かされるのだが、それは読んだ人だけのお楽しみということで。

 最後はさらなる続編「Another 2001」につながりそうな意味深な終わり方をしていた。ちなみにこれはもうじき刊行されます。この続編も非常に楽しみなのだけど、僕は単行本は買わずに文庫化を待つタイプの人間なので、読むのは一体いつになるのだろうか・・・という感じ。文庫化されるのは3年後くらいかなあ・・・。

 

 ここからは余談。今年の4月初めに「Another」のアニメ版を観た。基本的には原作準拠だが、終盤の展開は結末は同じとはいえ結構アニメオリジナルな展開となっていた(8話以降からそんな感じ)。この終盤が原作小説以上に凄惨で救いのない展開になっており、個人的にはちょっとやりすぎでは?と思ってしまった。だから僕はアニメ版より原作小説の方が好きかな・・・。

 

Another エピソードS (角川文庫)

Another エピソードS (角川文庫)

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2016/06/18
  • メディア: 文庫
 

 

 

悪魔の手毬唄

横溝正史・著 1959年(連載終了年)

・読んだ期間 2020年5月24日~5月28日

 

 お馴染み金田一耕助シリーズの1つ。これが横溝作品の最高傑作という人もいるほど。個人的には「八つ墓村」や「犬神家の一族」や「本陣殺人事件」のほうが好きなのだが、代表作の1つであり紹介しないのもあれなのでこの場を借りて紹介しておく。

 

 鬼首村の名家の娘がここに古くから伝わる手毬唄の内容に沿って殺される・・・というストーリー。面白い作品であるのには間違いないのだが、10選からは外れてしまったのは、今まで読んだ横溝作品と比べると登場人物が多く、さらに人間関係も複雑であったので、話を理解するのになかなか苦労したからである。こういう小説は2周目で大きく印象が変わったりするので、いつかまた読もうと思う。例により終盤は衝撃展開となっているので、頑張って最後まで読んで欲しい。

 

 本当にどうでもいい話だが、漢字は違うし人物像も全然違うものの、登場人物がリカとかサトコとかでひぐらしかよと思ってしまった。まさかこの小説から名前を引用・・・?なんてね。個人的には竜騎士07氏がどれくらい横溝作品を読んでいるのか気になるところである。

 

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

  • 作者:横溝 正史
  • 発売日: 1971/07/14
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

 今回の内容は以上。「何で10選の時点で選ばなかったんだよ」と言われそうなラインナップだが許して欲しい。むしろ今回は10選の記事より書いていて楽しかった気がする。また読んだ本についての感想をブログに書こうかなと思っているので、お楽しみに。