風城峠の回顧録

ゲームや本、地学のことなど

2020年下半期に読んだ本10選

 書こう書こうと思っていたら2月中旬になってしまった…。というわけで、今となっては昨年である、2020年下半期に読んだ本の中から、特に良かったものを10作品選んで紹介していこうと思う。

 

 なお、昨年12月に「個人的BOOKランキング2020(1~10位)」という記事を書いている。ここでは、下半期に読んだ本も4つランクインしている。もちろん、その4冊は今回の記事にも登場する。文章の内容も同じになってしまうが、ご了承頂きたい。

 

 つまり、BOOKランキングでは紹介しなかった6作品が、今回初紹介の作品となる。一体どのような作品が登場するのだろうか?なお、今回は順位を付けず、単純に読んだ順に紹介していく。

 

上半期に読んだ本についてはこちらから

 

shikakuyama.hatenablog.com

shikakuyama.hatenablog.com

 

 

「個人的BOOKランキング2020」はこちらから

shikakuyama.hatenablog.com

 

 では、早速紹介開始!

 

目次 

 

 

 

 

武田信玄

新田次郎、著 1969~1973年

・読んだ期間 2020年6月26日~7月10日

 

 新田次郎の小説の中で一番長いと思われる本作についに挑戦。文春文庫版は全4巻であり、僕は大学の図書館で借りた「新田次郎全集」で読んだのだが、それでも全3冊にわたっていた。

 

 現在長野県松本市に住んでいることもあって、前半、特に川中島の戦いまでは知っている地名や武将が多く登場し、楽しく読めた。ただ後半は舞台が南に移り、馴染みのない土地での話になったので、あまり興味が持てずほぼ惰性で読んだ。

 

 ちなみに、僕はかつて上杉謙信の居城であった春日山城があり、そのために「大正義 上杉謙信」という雰囲気のある街、新潟県上越市で生まれ育ったので、実は圧倒的上杉派である。なお作者の新田氏は武田派のようで、第四次川中島の戦いは武田側の勝利!みたいな感じで結論づけているが、僕はどうもこれには納得がいかない。いくら新田氏の小説のファンと言えど(笑)。とにもかくにも、長野県の戦国時代の情勢がよく知れたので、読んで良かった。

 

新装版 武田信玄 風の巻 (文春文庫)

新装版 武田信玄 風の巻 (文春文庫)

  • 作者:新田 次郎
  • 発売日: 2005/04/10
  • メディア: 文庫
 

 

 

「燃えつきた地図」

安部公房、著 1967年

・読んだ期間:2020年7月13日~7月16日

 

 最初の失踪届を見て、「砂の女」に続き「また失踪か(笑)」と思ってしまった。(「砂の女」「他人の顔」「燃えつきた地図」で失踪三部作と呼ばれているらしい)

 しかし、この物語の主人公は興信所の職員として失踪した人を追う側。だが、次々と現れる怪しい人物に翻弄されるうちに…という話。

 

 途中まで探偵小説的で安部公房作品の中でも分かりやすい方だが、最後の展開については読んだ人により解釈が分かれそうだ。ここの議論がこの小説で一番面白いところなのだけれど、ネタバレになるので詳しく紹介が出来ないのが残念だ。ぜひ、あなたなりの解釈をしてみて欲しい。

 

燃えつきた地図 (新潮文庫)

燃えつきた地図 (新潮文庫)

 

 

 

「向日葵の咲かない夏」

道尾秀介、著 2005年

・読んだ期間 2020年8月10日~8月13日

・個人的BOOKランキング2020 第7位

 

 ある夏の日、僕はS君が家で首を吊って死んでいるのを見つけた。しかし、しばらくすると彼の死体はその場から消えてしまっていた!さらに、死後S君は僕の前に現れ、「僕は殺された」という。僕は妹のミカ、そしてS君とともに事件の真相を暴くために動き出す・・・というストーリー。

 

 とにかく読者の予想の斜め上を行き続ける小説。例えば、死後僕の前に現れたS君。普通なら霊体となって現れたと思うでしょ?しかしこの小説では・・・、まあ言ってしまうと読んだ時の衝撃を損ねてしまうので言わないですけどね。

 

 読めば読むほど謎が深まり、もう何を信じればいいのか分からなくなっていく・・・。そして衝撃の結末。読んでいて決して気分が良い小説ではないが、その驚くべき仕掛けを楽しんでみて欲しい。

 

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 

 

 

「栄光の岩壁」

新田次郎、著 1973年

・読んだ期間 2020年8月27日~9月2日

・個人的BOOKランキング2020 第3位

 

 遭難により足が不自由になった竹井岳彦。しかし彼は登山を諦めてはいなかった。過酷なトレーニングの末、穂高岳の岩壁に挑戦。そして彼の情熱は次第に海外に向けられることとなる・・・。

 

 昨年読んだ「孤高の人」(個人的BOOKランキング2019、2位)と並んで非常に面白い小説だった。安定の新田次郎節というべきか、主人公の周りでやたら人が死ぬところ、主人公の邪魔をしてくるクズな人物が登場するところ、そして30過ぎまで恋愛話がないところなどは「孤高の人」と似通っている。新田次郎の山岳小説の主人公が、かなりの確率でそれなりの年まで童貞なのほんと好き(は?)。

 ただし「孤高の人」と大きく違うのは主人公が結構人と関わっているところ、そして時代設定である(「孤高の人」は戦前、こちらは戦中~戦後)。

 

 登山の恐怖と興奮に溢れた傑作。自分の信念を貫き通す強さには憧れてしまう。自分も頑張りたいものだ。

 

栄光の岩壁(上) (新潮文庫)

栄光の岩壁(上) (新潮文庫)

 

 

 

「僕って何」

三田誠広、著 1977年

・読んだ期間:2020年9月9日~9月11日

 

 ぼっち大学生である主人公がひょんなことから学生運動に巻き込まれていく話。最初はいかにも陰キャって感じだったのに、B派(学生運動の派閥の1つ)の部屋で出会った上級生の女子学生がいきなり自分の部屋にやってきて一晩を過ごし、その後同棲し出すという展開には「どういうエロゲー!?」と思った(あ、エロゲーはやったことないです)。くそー、うらやましいぞ!!

 

 時代が時代なので今と違うところもあるけれど、団体に属していても、その活動にのめりこむことができず、ただいるだけになるという感覚は共感できるものがあった。なんだかんだ主人公はたくましくなっている気がするけどね。ちなみに芥川賞受賞作。

 

僕って何 (河出文庫)

僕って何 (河出文庫)

 

 

 

「緋色の囁き」

綾辻行人、著 1988年

・読んだ期間 2020年9月29日~10月1日

・個人的BOOKランキング2020 第2位

 

 叔母が運営する女学園に入ることとなった冴子。そんな中、クラスで「魔女」と呼ばれていたルームメイトが焼死体で発見された・・・。その後次々と起こる殺人事件。記憶が曖昧なため、まさか自分が・・・と恐れをなす冴子。しかも彼女は幼い頃の記憶を失っていた。一体事件の犯人とは誰なのか?そして冴子の過去とは?というストーリー。

 

 昨年読んだ「Another」と並ぶくらい面白かった作品。読みやすさと面白さでページがどんどん進んだ。時々挿入される「囁き」も不気味であった。30年以上前の作品だけど全く古さを感じさせない。登場人物が女子ばかりなので、アニメ化したら華やかになるのでは?(やめろ)

 

 ちなみに自分が購入した少し後に本作の新装改訂版の発売が発表された。なんだよ~と思ったが、今後旧版を新品で手に入れるのは困難になるかもしれないので、それはそれで良いのかもしれない。Amazonのリンクは自分が購入した旧版である。

 

緋色の囁き (講談社文庫)

緋色の囁き (講談社文庫)

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 1997/11/14
  • メディア: 文庫
 

 

 

「芽むしり仔撃ち」

大江健三郎、著 1958年

・読んだ期間 2020年10月中旬

 

 10~12月にかけて、大学図書館で「大江健三郎 小説」(1996年 新潮社刊)をかり、大江健三郎の作品を読みまくった。面白いとかはまったとかそういうわけでもないんだけど、何だかんだたくさん読んでしまった…。そんな作品の中のひとつ。

 

 ノーベル文学賞作家、大江健三郎の長編処女作。戦時中、疫病が流行り、村人が逃げ出した村での少年たちのサバイバルを描いた作品。大江作品には難解なものも多いが、これは単純にサバイバルものとして抜群に面白いので、大江作品の入門編としてもオススメ。ただし、戦時中の大人たちの身勝手さを恐ろしいほど見せつけられる作品でもある。これを23歳の時に書いたって凄すぎるな…。

 

 

 

「日本の火山に登る」

・及川輝樹、山田久美・著 2020年

・読んだ期間 2020年10月29日~11月1日

・個人的BOOKランキング2020 第5位

 

 火山学者が火山の面白いところを色々紹介している本書。大学で地質学を学んでいる僕であるが、著者の及川さんは自分の大学、そして所属している学科のOBでもある。これは買わないわけにはいかない!

 

 最新の研究結果が多く盛り込まれており、新たな驚きがたくさんある。例えば、一万年以上沈黙を保っていたかのように思われていた御嶽山が、実はしょっちゅう噴火していたとか(千年~万年単位の、長い目で見たときの「しょっちゅう」であることをお忘れなく)。

 今年実際に行ったところについても結構書かれていたのが嬉しい。大きな岩がゴロゴロしていて進むのに難儀した北八ヶ岳の三ツ岳は比較的新しい溶岩で出来ているとか、多くの登山客で賑わう乗鞍岳ではたった500年前に水蒸気噴火を起こしていたかもしれないとか・・・。枚挙にいとまがない。

 

 地学や登山に興味のある方もない方も、是非本書を手に取って、日本の自然を味わって頂きたい。

 

 

 

 

万延元年のフットボール

大江健三郎、著 1967年

・読んだ期間 2020年11月17日~20日

 

 ノーベル文学賞を受賞するきっかけとなった作品のひとつ。主人公は妻、そして思想的な弟とその仲間とともに故郷の村へと移り住んだが、弟がフットボールチームの人々と何か企んでいる…、そしてついに反乱が…、という内容。

 大江健三郎の文章や世界観に慣れてきたのか、思っていたよりも読みやすかった。特に、終盤の怒濤の流れには圧倒されるしかなかった。

 

 村に入ってきたスーパーマーケットという新しい社会、これが当時(1960年代)の状況をよく表しているように思う。戦争の記憶が人々の中にまだありありと残っている時代だが、それでも社会は新しい方向に向かっているのである。

 

 密度が濃くて決してうまく消化できたとは言えないが、これが名作だと言われる理由はなんとなく分かった。いつかまた挑戦してみたい。

 

 

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

 

 

 

「消えた市区町村名の謎」

・八幡和郎、著 2017年

・読んだ期間:2020年12月18日~12月24日

 

 合併後にできた市町村名がどのようにして出来たか知ることができ、さらに筆者の市町村名に対する評価も書かれている。ページ数以上にビッシリと情報が詰め込まれており、非常にマニアックな内容。新書だから…とナメてた。あなたの住む市町村についてもきっと紹介されていることだろう。僕の故郷である新潟県上越市も、消えた市(高田市、直江津市)の例として何度か登場。ちなみに、今年は上越市誕生50周年ですよ。

 

 

 

 今回の内容は以上である。

 昨年読んだ本についてはもう少し書きたいことがあるので、やる気が起きれば書くかもしれない。お楽しみに。