風城峠の回顧録

ゲームや本、地学のことなど

「地震学」の本を読んだので感想を書いてみる

 せっかくの春休みなので、何か成し遂げようと思って挑戦したことがある。それは、共立出版より発売されている、「現代地球科学入門シリーズ6 地震学」(長谷川昭・佐藤春夫・西村太志、著)を読むことである。

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 元々地震に興味がある人間であり、読んでおくと今後の進路にも役に立つかもしれない、と思ったので、いつか読もうと思いながら時間だけが流れていった。その理由は、この本は数式のオンパレードだからだ。

 

 僕は理系とはいえ数学は苦手である。そして、理系とはいえ数学の授業を熱心にやらない学科に所属しているので、大学数学の知識も乏しい。本書を開くと目に飛び込んでくるインテグラルの羅列を見て、「ああ、無理だな…」と思った。

 だが、ここで立ち向かわないまま終わるのもなんか悔しい。そして僕に火を付けたのは、この本の内容は○北大学理学部の講義、特に第1部の「地震学概論」の部分は、東○大学の学部3年生を対象にした「地震学」の講義を元に書かれているらしいということである。色々と複雑な理由から某大学の学生には負けていられるか!という思いがあるので、早速読み解く準備に取りかかることにした。(ちなみに僕は某地方国立大学の学部3年生です)

 

 読み解く準備とはすなわち数学の勉強である。かといって、先に書いたように僕は数学が苦手だし、それ故に真面目に勉強する時間も無い。何か大学数学を比較的やさしく解説してくれるサイトはあるものか、と思って見つけたのが「EMANの物理数学」というサイトだ。

 

 このサイトは、広江克彦さん(通称:EMAN)という方が、物理学について色々と分かりやすくまとめている「EMANの物理学」というサイトの中にある。大学数学の基礎的な内容が、広範囲にわたって分かりやすく解説されているので非常にありがたい。数弱でも分かったような気分になれる。

 かなり量は多いが、少なくとも線形代数」「微積分のテクニック」「ベクトル解析」「複素関数論」「応用的な豆知識(クロネッカーのデルタ、デルタ関数)」「フーリエ解析」「微分方程式ラプラス変換までとグリーン関数)」辺りは読んでおいた方が良い。

 

 勿論、これを読んだだけでこの本の内容を全て理解できる訳では無い。ちゃんと理解するためにはそれ相応の訓練が必要である。ただしそんな時間は無い。でも何も知識がないと本当に何も分からないので、取りあえず数式の雰囲気を感じ取るだけなら、このサイトを読むだけでも大いに意味があると思う。僕も大学数学ってこんな感じなのか、ということを知る良い機会となった(決して身についたとは言えないが)。ちなみに、このサイトでも無理!という人はもう諦めた方が良い。

eman-physics.net

 

 

 また、教科書ではすっ飛ばされている基礎の基礎を教えてくれる良い動画がある。それは、地球科学系YouTuberと名乗るゆうすけさんという方が作成した地震学の講義動画である。現在全6回分配信されている。これからが本番の内容!ってところでこの講義動画は終わっているので、早く続きを作って欲しい。ただ、基礎の基礎を知るには今の状態でも大いに役に立つだろう。

www.youtube.com

 

 なお、この本のまえがきには、「ベクトル、テンソルフーリエ変換などの数学的な基礎、ひずみと応力など弾性体力学の基礎、および波動に関する授業などを履修していることが望ましい。ただし、本文中の説明や巻末に付録を用意することにより、それらにとくに習熟していなくても基本的事項の理解ができるように配慮してある。」と書いてあるが、それは嘘である。この本だけで理解できる人は一部の超優秀な人だけ。だから、分からなくなったら上記に貼り付けたサイトを参考にして欲しい。

 

 

 では、ここからこの本の内容について軽く触れていこう。読む際の参考として、各章の読解難易度を書いていく。ただし、これは地球科学的背景知識がそこそこある人にとっての難易度であり、そういうのにノータッチな人はなかなか厳しいかも知れない。正直、ここでの難易度は、各章の数式の量に依存している。

 

 

第1章 地震地震

・難易度:低

 プロローグ的な内容であり、特に問題ないだろう。

 

 

第1部 地震学概論

 

第2章 地震計と地震観測

第3章 実体波の伝播

第4章 表面波の伝播

・難易度:高

 ここからいきなり数式のオンパレードである。それでも地震学の基礎的な内容なので出来る限り理解できればいいのだが、自分を含め素人にはかなり厳しいので、取りあえず導き出された式を元に書かれたグラフから、この式がどのようなことを意味しているのか読み取るといいだろう(こんな偉そうなことを言える立場では全く無いのだけれど)。

 あ~、某大学の学部3年生は授業でこんなことをやっているのか~(瀕死)。

 

第5章 地震波線と地球内部構造

第6章 地球内部の構造推定

第7章 地震の空間分布

第8章 地震の発生機構

・難易度:中

 相変わらず数式は多いが、それでも第2~4章よりはマシ。第5章の走時曲線や、第8章の発震機構の表現方法&断層の力学は、知っておくと結構役に立つかも。ちなみに、ちょうど第5章を読み終わった頃に、2月13日の福島県地震(M7.3)が起きた。しばらくしてTwitterのタイムラインに走時曲線のグラフが流れてきたのを目にした僕は、「あっ、これ今日地震学の本で見たやつだ!」(進研ゼミ風に)となった。(そもそも何でタイムラインに走時曲線なんか流れてくるんですかね…)

 

第9章 地震動と地震の規模

第10章 地震の活動

・難易度:低

 第1部の癒やし。単純な読み物。

 

 

第2部 地震波動

 

第11章 波動方程式グリーン関数

第12章 グリーン関数の相反性と表現定理

第13章 点震源断層モデルとモーメントテンソル

第14章 せん断型変位食違い断層モデルに基づく地震波の生成

第15章 応力解放モデルに基づくクラック形成による静的変位

・難易度:高

 これらの章は今の僕には無理!もう理解するのを諦めました。とにかくひたすら数式数式数式…。第1部はまだ必死に食らいつこうとしていたけれど、第2部はね…。いつか再挑戦したいものです。

 

第16章 地震断層パラメータの相似則

・難易度:中

 難易度が非常に高い第2部の中でもまだマシかな…という章。地震モーメントと様々な指標との関係を示している。わりと気持ちよく比例関係になるよ~ということを言いたいのだろう。

 

第17章 自由表面への点荷重による静的弾性変形

第18章 水平線震源によるラブ波の励起

第19章 地球の自由振動

第20章 短周期コーダ波

第21章 ランダムノイズの相互相関関数解析に基づくグリーン関数の抽出

・難易度:高

 これらも僕の頭ではまともに理解が出来ない内容。S波の後に来る波のことをコーダ波というのは今回初めて知った。第20章の文章部分は読んでみると良いと思う。

 

 

第3部 地震テクトニクス

 

第22章 プレートテクトニクスと世界の地震活動

第23章 地球の内部構造とダイナミクス

第24章 日本列島周辺の地殻・上部マントル構造と地震活動

第25章 沈込み帯の地震とその発生機構

第26章 地震の予知・予測

・難易度:低

 第3部は数式がほとんど出てこず、本書の中では一番読みやすい部分である(ただし地球科学的背景知識がないと辛いかもしれない)。地震のことだけでなく、地球の内部構造についても知ることが出来る。

 個人的に面白いなと思ったトピックは、ここ数十年に発生した大きめの内陸地震震源の真下には、地震波の低速度領域があるということ。この低速度領域には流体があり、これが周囲の岩石を軟化させて地震を引き起こしているのではないか、という話らしい。つまり、低速度領域の上では地震が起きやすいかもしれない、ということだ。これらはまだ研究段階にあるが、研究が進めば低速度領域を探して地震が起きやすそうな場所を探る、ということもできるかもしれないので、今後の進展が期待される。詳しくは第25章を読んで欲しい。

 東北沖のような、プレート境界地震についても非常に詳しく解説されているのでとても勉強になる。それと比べると、内陸地震についての記述はやや少なめかも。

 

 

 というわけで簡単に感想を書いてきた。非常に難しい箇所もあるが、かなり勉強になる本でもあるので、地震学を勉強してみたい、という方はぜひ読んでみて欲しい。まあ、もう少し平易な内容の本を読んでからの方がいいと思うけれど(新書とかブルーバックスとか)。

 

 地球科学の参考書の感想を書くという記事は、好評だったらシリーズ化するかも…?こちらの勉強にもなるし。非常にニッチな内容なのでアクセス数は期待できないけれど。

 

 

〈おまけ〉過去に書いた地学関係の記事

・地学との出会いシリーズ

 僕がどうして地学にはまったかを書いた記事。全4回予定だったけれど、書く気が無くなったので2回で止まっています。今後続きを書く可能性は限りなく低いです。正直第2回までで大体言いたいことは言ってると思う。

 

shikakuyama.hatenablog.com

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 ・新潟の冬~雪との闘い~

  今年の冬は、新潟を含む北陸の各地で異常な大雪となりました。これは新潟県上越市を舞台に、そんな雪国での暮らしを書いた記事です。

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・【本当に正しい】日本の10万人以上の都市 降雪量ランキング

 アメリカの某メディアが世界各地の10万人以上の都市を対象に降雪量ランキングを作りました。すると日本の都市がトップ3入り!でもそのランキング、本当に正しいの…?

 ということで、僕が日本のみを対象にして、ランキングを作り直しました。こっちが広まって欲しい…。

 

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