風城峠の回顧録

ゲームや本、地学のことなど

個人的BOOKランキング2021(1~10位)

さて今年ももうすぐ終わりです、というかもうとっくに終わってしまいました…。卒論の執筆に忙しくて年内に書き上げることが出来ませんでした。大変遅れてしまいましたが、いつものように、今年(今となっては去年)読んだ本の中から特に良かったものを10作品選んで、ランキング形式で紹介したいと思います。

 

・注意事項

 気をつけて欲しいのは、このランキングに出てくるのはあくまでも「僕が今年読んだ本」であり、「今年発売された本」から選んでいるわけではありません。そのため様々な時代の作品が混ざっています。ただし、対象となるのは今年初めて読んだ本であり、今年再読した本は含めません。

 また、単純に自分がどれだけ心を動かされたかを重点に置いてランキングを作っているので、ほとんど作品の権威や名声関係なしに本を選んでいます。あくまでも個人的な好みによるランキングです。その点をご了承ください。

 さらに、個人的な趣向により、ランキング中に出てくる作者や本のジャンルがやたら偏っている場合がありますが、これも仕方ないことですので気にしないでください。

 

 

2019年版はこちら

 

shikakuyama.hatenablog.com

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2020年版はこちら

 

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目次

 

 

第10位 「槍ヶ岳開山」

新田次郎・著 1968年

・読んだ期間:2021年9月16日~9月23日

・文春文庫

 

 時は江戸時代後期、 越中(現在の富山県)で発生した一揆の際、岩松は意図せず妻を殺してしまう。その苦悩から出家をし、修行の旅に出る。そして播隆という名で飛騨に戻ってきたのち、笠ヶ岳の再興、そして当時まだ誰も登ったことがなかった槍ヶ岳の開山を行う。

 

 播隆上人という、実在の人物をモデルに描いた山岳歴史小説(妻殺しの下りなど、どうやら史実と異なる部分は多いようだが)。松本駅前に彼の像が立っているとのこと。

 槍ヶ岳はその標高と険しさから、現在でも登るのは容易ではない山のひとつ。そこに、道のない時に、そして現在と比べればかなり貧弱な装備で挑むという、その勇気が凄い。勿論スムーズにいくはずはない。本当に登れるのだろうかという不安な場面はいくつも出てくる。そのような、自然の過酷さを見事に描くという新田作品の魅力は、本作でも健在だ。

 

 他に印象に残った部分を1つ紹介する。高山では、時々、雲海の上に大きな人の影が、光とともに浮かび上がることがある。いわゆる「ブロッケン現象」である。ただし、昔の人はそれを阿弥陀如来の出現と捉えて、崇めていた。本作でも、笠ヶ岳にてブロッケン現象が現れ、人々はこれに感嘆する。

 さて、その後、作中では科学に見識のある謎の人物が登場する。彼はその現象はブロッケン現象であるというような話をするのだが、その後に「科学の世界と心の世界とは別に考えるべきだと思います」とも語る。つまり、科学的にはブロッケン現象で説明がついてしまうけれど、阿弥陀如来の出現と考えるのもそれはそれで良いということだ。これについては激しく同意で、自然を人智を超えたものとして特別視する心は大切だと思う。その方がロマンがあるからね。この人物は、きっと作者の思想を代弁しているのであろう。

 

 長くなったが、この小説で自然を敬っていた時代の人々の心に触れてみてほしい。

 

 

 

第9位「送り火

重松清・著 2003年

・読んだ期間:2021年10月22日~10月31日

・文春文庫

 

 中学~高校のときに読みまくった重松清作品だが、大学入学後は読む頻度が減っていた。本書も中学生の頃からいつか読もうと思っていたものの一つだが、気付いたらこの年になってしまった。ちなみに、重松清作品が個人的BOOKランキングの10位以内に入ってくるのは、2017~2018年版の「ゼツメツ少年」以来となる。

 

  2000年代初頭に書かれた作品を集めた短編集で、この頃の作品は作者の全盛期感を感じる。全9編収録。やはり重松作品を読むと実家のような安心感を感じるのだが、最初の方に収録されている「フジミ荘奇譚」や「ハードラック・ウーマン」はいつもの重松作品とは違って結構しっかりとしたホラーとなっている。ただその後の収録作品は家族との死別や人生の困難をテーマとしたいつもの重松作品…なんだけど、ちょっとした不思議要素も入っている。個人的には、ママ友間での人間関係の怖さを描いた「漂流記」、かつてのバンド評論家と、かつてのバンドマン、そして彼らに影響され過ぎた?人(いわゆる過激派ファン)を描く「シド・ヴィシャスから遠く離れて」、妻と別居中の男が、帰り道に駅で突然死んだ男の幽霊と会話する「家路」が特に印象的だった。

 

 

 

第8位「流れる星は生きている

藤原てい・著 1949年

・読んだ期間:2021年3月22日~3月26日

・中公文庫

 

 先程登場した新田次郎さんの妻、藤原ていさんによって書かれた、終戦直後の、母と子の満州からの引き上げの記録。ちなみに、新田次郎さんが本格的に小説を書くことを決めたのは、妻が書いたこの本がベストセラーになったからだという。

 

 今でいう北朝鮮での集団生活、生活費稼ぎ、栄養不足と子どもの病気、過酷な徒歩での長距離移動などなど、とにかく苦労が絶えない。誰もが自分が生きるのに精一杯であり、他人のことなどかまっていられない。朝鮮人は日本人のことを良く思っておらず、そもそも日本人同士でも言い合いが多い。だけど、そんな中でも、時々優しい手を差しのべてくれる人がいる。そのおかげで、何とか生き延びていく。こういう辛い思いをした人々が沢山いたことを、終戦から半世紀以上経ってから生まれた僕らは知っておく必要があると思う。

 

 なお、作中に出てくる新田次郎さん(本名は藤原寛人)の人物像が、いかにも新田作品に出てきそうな感じなのが面白い。クールで理知的なんだけど、それゆえに時々周囲を困らせるみたいな。なお新田さん本人は家族とはともに引き上げせず、しばらく中国で仕事をしてから帰国している。その時の経験をもとにして書かれた「望郷」「豆満江」という小説もあるので、本書とセットで読んでみるとなお良いだろう。

 

 

 

第7位「さよならジュピター

小松左京・著 1982年

・読んだ期間:2021年9月30日~10月10日

・ハルキ文庫

 

 宇宙を舞台とした壮大なSF小説。ここ数年小松左京の小説が角川文庫やハルキ文庫などで次々に復刊されており、最近になってファンになった者からしたら嬉しい。本作もそのような小説の一つ。

 

 内容は、上巻では主に「木星太陽化計画」の進行に奮闘する人々を描く。また、10万年ほど前に宇宙人が太陽系に残したという警告の調査も始まるのだが、そんなある時、太陽系外の恒星系へと向かっていた宇宙船が事故を起こす。なんとその原因はブラックホールであり、しかもこのままではそれは太陽に衝突するという。下巻はこの阻止がメインの内容。

 

 特に上巻は結構難しい説明が多くて読むのが大変だった。「日本沈没」「復活の日」のときもそうだったけれど、もう一回読めばより楽しめるかも。毎回細かい設定を仕掛けてくる小松さんの知識量には敬服するばかりだ。

 

 

 

第6位「方舟さくら丸」

安部公房・著 1984

・読んだ期間:2021年11月20日~11月23日

新潮文庫

 

 核戦争から逃れるための「方舟」である地下採石場跡で暮らす主人公「モグラ」。彼は方舟の乗船券を誰に渡そうか日々考えているが、ある日ユープケッチャなる昆虫を売っている昆虫屋、そしてその客を演じる2人の男女に出会う。そんなサクラの男女に乗船券を意図せず持っていかれ、昆虫屋とともに追跡。そして「方舟」内で奇妙な生活が始まる…というストーリー。

 

 トラップだらけの地下採石場内、そしてユーモア溢れる会話など、安部公房作品の中でもかなりエンタメ色が強い小説。ネタバレになるので詳述は避けるが、とにかく最後までシュールで予期せぬトラブルが続く。「壁」や「箱男」でワケワカラン!ってなった人も是非読んでみてほしい。

 

 

 

第5位「時計館の殺人

綾辻行人・著 1991年

・読んだ期間:2021年2月6日~2月11日

講談社文庫

 

 綾辻行人作品もこれで3年連続ランクイン。僕の個人的BOOKランキングでの定番作家になりつつある。

 

 大量の時計が置かれている時計館、そこでは以前短期間の間に、当主の娘をはじめ何人もの人が次々に亡くなった。そんな時計館で少女の霊の声を聞こうと、霊能者と雑誌の取材班、そして大学のミステリー研究会のメンバーが泊まり込む。しかし、そこでは次々に殺人事件が発生する…というストーリー。

 

 霊能者とか幽霊とかいかにもオカルトめいた怪しげな設定がたまらない。ネタバレになるので内容は書けないが、トリックやからくりもかなり大がかりなものとなっている。面白い作品であることには間違いないが、例のごとく人が死にまくるのでそこは覚悟してから読むように。

 

 

 

第4位「告白」

湊かなえ・著 2008年

・読んだ期間:2021年3月30日~3月31日

双葉文庫

 

 ミステリー小説を多く読む僕であるが、湊かなえ作品はこれまでまともに読んだことがなかった。取りあえず、まずは一番有名であろうこれを読もうかなと。

 

  生徒に娘を殺されたという教師の告白から始まり、その後事件に関わった人がどうなったかを描いていく連作短編集となっている。それなりに暗い作品には触れてきた僕でも、読んでいてかなり嫌な気分になる内容。何なら5位に挙げた「時計館の殺人」よりも気が重くなるレベル。やはり「イヤミスの女王」の名はダテじゃないな。教師の告白以降、事件の当事者はさらにとんでもない方向へと向かっていく。本作には単純に恨みの連鎖では済まされない恐ろしさがある。

 

 正直引いてしまうレベルの鬱展開であるが、それも間違いなく本作の魅力の一つ。ミステリーとしての仕掛けも凄いので、鬱耐性がある人は読んでみるとよいだろう。

 

 

 

第3位「こちらニッポン…」

小松左京・著 1977年

・読んだ期間:2021年2月23日~2月27日

・ハルキ文庫

 

 わずかな人数だけ残して突然人間が消えてしまった世界でのサバイバルを描いた作品。何とか消え残った人を探し出し、大半は東京に集まるのだが、人間とは愚かなもので、集まったら集まったでトラブル発生…。そして人がいないために徐々に荒れ始める街…。感染症によって人類のほとんどが死滅する同著者の「復活の日」とはまた違った怖さがある。

 

  舞台が執筆当時の1970年代後半なので、アマチュア無線等を駆使して人探しをしなければならない。今だったらインターネットがあるから人を探すのがもっと楽なのかなと思ったりするが、ただそれだと物語としてつまらない。やはりこの作品はこの時代に書かれたからこその良さがあるのだと思う。

 何がともあれ、僕と同じように日常が突然崩壊するような作品が好きな人は是非読んでみてほしい。ただし現在は紙媒体での新品の販売はされていない。僕のように中古で買って読むか、電子書籍で読むかのどちらかになる。先程述べたように、最近小松左京作品の復刊ラッシュが来ているので、もしかしたら復刊されるかも・・・(保証はない)。

 

 

 

第2位「蒲生邸事件」

宮部みゆき・著 1996年

・読んだ期間:2021年11月1日~11月11日

・文春文庫

 

 大学受験に失敗し、浪人の準備をしていた孝史は、止まっていたホテルで火事に巻き込まれる。もうダメかと思ったその時、昼間見かけた怪しい男がやって来て、何と1936年、それも二・二六事件があった頃にタイムスリップしてしまう。ホテルがあった場所は、かつては蒲生元陸軍大将の屋敷だった。孝史たちは取りあえずそこで過ごすこととなるが、二・二六事件の日、なんと蒲生元大将が拳銃自決する。これは本当に自決なのか、それとも殺人事件なのか…?そして孝史たちは無事現代に帰ることが、また1945年に蒲生邸で起こる悲劇を阻止することができるのか…?というストーリー。

 

 過去の世界で未来に待ち受ける悲劇を阻止せよ、というのはタイムスリップものの王道だけど、何だかんだ僕はこういう話好きなんだよなぁ。それに加えてミステリー要素も含まれているのだから、なんて贅沢な小説だろう。

 同時に日本が戦争に突き進んだ時代について思いを馳せることができる。1936年ってまだ凄く昔って訳ではないんだよね。この小説における「現代」である1994年なら尚更。でもその間に生活も価値観も大きく変わってしまった。時の流れをテーマにしている小説だけあって、読みながらついそんなことを考えてしまった。

 

 「レベル7」「模倣犯」と並んで、自分の中で特に好きな宮部みゆき作品となった。宮部作品の良さがかなり詰め込まれている小説だと思う。

 

 

 

第1位「カラスの親指 by rule of CROW’S thumb」

道尾秀介・著 2008年

・読んだ期間:2021年4月1日~4月5日

講談社文庫

 

 読み終えた瞬間、これより面白い小説にしばらく出会える気がしない、と思った。そして、まだ4月上旬にもかかわらず、これは年間1位最有力候補だな、とも思った。この印象は年が終わるまで覆ることがなく、結果として堂々の第1位となった。

 

 詐欺などの違法行為で生計を立てていた武沢とテツさんだが、ある時武沢のアパートが火事になる。かつて自分が所属し、そして壊滅させた悪徳金融業の奴等が復讐に来たと思った武沢は、新しく家を借りて身を隠す。そしてスリを生業としている少女、まひろも武沢とテツさんの仲間となり、悪徳金融業者たちに反撃を試みる…というストーリー。

 

 僕の書いたお粗末なあらすじだと面白さがうまく伝わらなくてもどかしいのだが、この小説はとにかく中に仕組まれた仕掛けが凄い。もちろんネタバレになるので内容は言わないけれど、終盤とんでもない真相が明かされる。そこまでもスリルある展開で非常に面白かったのだが、この仕掛けを知って株が爆上がりした。正直これは自分の身を持って体験してくれとしか言いようがない。ミステリーのどんでん返しが好きな人は必ず感動することだろう。

 

 

 

 というわけで「個人的BOOKランキング2021」の発表が終わりました。いかがだったでしょうか?今年もジャンルや作者に偏りがありましたが、読む本を選ぶ際に参考にして頂けると幸いです。2022年はどのようなランキングになるのか、自分でも楽しみです。ではまた。